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少客再来
2011.05.15



成熟し少消費国家となった日本において、千客万来というキーワードを商いに当てはめることが難しくなりました。 まして地方の人口減少化傾向の都市であればなおさらです。これまでの投資に見合う効果という事業的な考え方ではなく、 好きなことで自己実現するために仕事というフィールドで表現し、生涯をかけて持続発展させていくといったイタリアの中小企業のような 生き方がこれからの日本に馴染んでいくのではと気付きました。私が以前から好んで使ってきた言葉が「少客再来」なのですが、大量に消費するのではなく、 逸品を大事に長く使えるモノを時間をかけて選び取って欲しいという理想の消費スタイルです。モノが上質であれば、子どもたちにも使っていただきたいと いう願いもあります。私の父が亡くなった時に譲って欲しいと思ったモノが2つありました。一つは剣道の防具です。籠手の親指の所には穴が開いて革で継ぎ あてされた古い用具一式。それとテーラーだった父が作ったジャケットです。どちらも父がアレンジを加えながら大事に使いこんだ彼にとっての逸品です。 「私が死んだ時に息子は何を選び取ってくれるかなあ」と思うことがあります。それからです。車、筆記具、靴、コート、時計、旅行鞄そして家は時が経っても 価値の下がらないモノを選び、そして苦楽を共に使い込んでやろうとモノとの向き合い方が変わりました。私の店にも「父の形見だから」と大事に万年筆の ペン先調整の依頼に訪れるお客様がいらっしゃいます。高額ブランドの代名詞ルイ・ヴィトンも無名の時代にしっかりリペアをしたから今日があると聞いたことがあります。 これからの時間の中では、少々課題があっても可能性を秘めた品とそのブランドの発展に関わり、それを選び取ったお客様が幸せになれたらと願うようになりました。 日本のメーカーは良いものを安く作ってたくさん売りました。フランスやイタリアは日本と同じ原価の商材でも付加価値を与えて高くエレガントに商品を仕上げることに 注力しました。「良いモノだからこそ高く」流通させて、 そして世界一の日本のホスピタリティを付加させていくことが少消費国家を生き抜く鍵だと私は思います。